こどもの「ワーキングメモリのタイプ」を見出すプロフェッショナル【第3部

一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会
理事 野瀨まなみ さん

脳科学や神経科学の分野では日々新たなことが明らかになっています。「個別に最適な学習」は、教育・人材育成など人に関わる私たちにとって最重要のキーワードです。アセスメント「HUCRoW(フクロウ)」では、一人ひとり異なる「ワーキングメモリのタイプ」を測ることができ、それぞれに合う学習アドバイスが得られます。今回はこのHUCRoWを国内で唯一(※)分析されている野瀨先生にお話を伺いました。

※ワーキングメモリアセスメント「HUCRoW」は広島大学大学院教授、一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会代表理事の湯澤正通先生が開発しました。野瀨さんが一次採点、分析を行い、それを湯澤正通先生が目を通し、受検者の方へフィードバックがされています。

インタビューにご協力いただいた専門家

野瀨 まなみ さん


一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会


理事
株式会社インフィニットマインド


上級インストラクター

大学を卒業し、九州大手進学塾にて講師を務めた後に、株式会社インフィニットマインドに入社。上級インストラクターとして各種講座講師としてこどもたちの指導にあたる。
2021年より一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会理事に就任。代表理事の湯澤正通先生と共にアセスメントHUCRoWの普及ならびにオンラインにてワーキングメモリに関する研修会、セミナーの開催を行い、これまでのべ約3,000名以上の方々が参加。
「ワーキングメモリのタイプ」を知るアセスメントHUCRoWの結果レポート作成業務は国内で唯一その権利を有している。

野瀨さん理想を言えば、全員が小学校に向けた準備の一環として受けていただくと、今度の学習のことを予想できるのでいいなぁと思っています。
ただ、気になる兆候としては、例えば、指示がうまく通りにくかったり言葉の発達が遅れていたりする、他にも、モノの数を数えたりが苦手、幼稚園・保育園で先生の指示が通りにくい他の子と違う行動をするなどの指摘があるというのも一つかもしれません。

私は、兆候から判断するというより「ワーキングメモリのタイプ」を把握するという観点で、すべての子どもに受けてもらうことが理想だと感じています。

野瀨さんはい、関係しています。

ワーキングメモリを働かせて授業についていくためには、「参加する力」が必要になります。
「参加する力」とは、学習の基盤となる力で、「抑制・切替(シフト)・更新」の3つが挙げられます。この3つの力は日常生活や遊びを通して、親の愛情のある接し方や周りの大人や友だちとの関わりの中で育まれます。

特に幼児期は、我慢や自己コントロールが難しく、達成しようとしていた目標を見失いがちで、ちがうことをはじめたり、ウロウロしたりしてしまいます。そのとき、大人がそばで見守り、声掛けをすることで一人の力でやり遂げられるようになります。
つまり、様々な経験・体験を通して、スモールステップで3つの力を育むことができ、その結果として学習や習い事などに参加できるようになり、ワーキングメモリを働かせ知識を増やしたり、スキルを身に着けたりすることができるのです。

野瀨さんまず、ゲームやYouTubeに多くの時間を割かないことが大切です。
YouTubeやスマホのゲームは、頭を使わずに、楽に行うことができ、しかも刺激的です。常習性があります(たばこやお酒のように、一度、くせになると、中毒のようになって、やめられない)。「それ自体は害はない」と言われていますが、YouTubeやスマホに費やす時間が増える分、コミュニケーションや主体的な活動の時間が減ります。そのことが問題だと言われています。

絵本の読み聞かせ、保護者やお友達、先生などとの会話、言葉遊び、疑似体験も含めてたくさんの経験・体験をすることで言葉を増やし、普段の生活の中で数に触れる機会を作ることが、特に小学校入学後の学習の基礎を作り、ワーキングメモリの発達を促すことが出来ます。

また、こどもに対して過度な期待や緊張を与えないことも大事です。
ワーキングメモリは緊張などに弱く、過度なストレスがかかると上手く働かなることもあります。

保護者様や大人は自分の感覚でどうしても「自分はこの年齢の頃にココまでできたから、こどももできるはず」と考えたり、かな文字の学習が始まったこどもに対して「鏡文字を書くなんてあり得ない」などと思ってしまうことがありますが、こどもには個々のペースがありますので、過度な期待は避け、こどもに合わせて接していくことが大切です。

野瀨さんそうですね、先にもお伝えした「ワーキングメモリのタイプ」を測る「HUCRoW」でこどもの特性を正確に把握することで、出来ない原因や解決のカギが見つけることができます。それに合わせて声掛けをしたり、関わることで成長を促すことができます。
問題集を解いたりしなくても、日常生活の中で出来ることもたくさんあるんですよ。

野瀨さんはい、そうですね。例えば、絵本の読み聞かせをする際に「“ひまわり”が咲いてるってことは季節はいつかな?」「うさぎさんの他に、どんな動物が出てきた?」と言った簡単な質問を投げかけたり、食事の際に「いちご、おいしいね!」だけではなく、「このいちご、真っ赤で、甘くて、おいしいね」と何か加えて表現することで言葉の幅を広げることができます。

また、算数の基礎作りであれば、お風呂の中で「10まで数えたらあがろう!」や、お菓子をあげるときに「この箱の中から6つ取っていいよ」と言って数を数えさせるだけでも、数の理解を促進することができます。

保護者様や周りの大人が、経験値やチェックリストでこどもを判断したり、推測するのではなく、正確にこどもの特性と向き合うことで、こどもの発達・成長に変化を生むことができます。
例えば、保護者様が関わり方を変えることで、こどもの自身もだんだんと意識することができるようになり一人でやり遂げられるようになっていきます。

野瀨さんその通りです。学習方法だけではなく、親子関係なども改善したというご意見をいただくことがあります。
例えば、親子関係においての学習方法の、合う・合わない、はありますよね。お子さんは言語で理解しますが、保護者様はイメージで理解するタイプ。算数の問題を解くときに、「グラフにすればすぐにわかるでしょ」と保護者様が伝えても、お子さんにはさっぱりわからないんです。しかし、テキストベースの表にして色で区別すると、お子さんはすんなり理解・把握できたそうです。その違いが分かっただけでも、親子のイライラが格段に減ったと喜んでおられました。
他にも中学生のお子様を持つ保護者様。お子さんに頼む際に「適当にやっておいて」という漠然とした伝え方では、どこに何を入れればいいか判断できず、買い物袋のまま冷蔵庫の前に置いてあったり…。特性を把握してからは「冷蔵庫の上から2段目に入れておいて」など、明確に説明したり、メモで残すことできたりすることが増えたそうです。

お子さん自身も自分のことを理解し、アルバイトなどでは「すみません。口頭だけだと忘れるので、メモしていいですか?」とメモをして忘れないようにする工夫などもされるようになったと聞いてます。

こどもの特性を把握することで、学習における困難・つまずきはもちろん、予防や、またその後の社会生活などにも生かせるようなお手伝いが出来ればと思います。

あとがき

今回のインタビューを通じて、HUCRoWテストがどれほどこどもの学びに役立つか、また家庭でのアプローチの重要性が見えてきました。こどものワーキングメモリー特性を知ることで、最適な学習方法を見つけ、よりスムーズに学びを進めることが可能になります。

家庭での関わり方一つで、こどもの成長に大きな影響を与えることができるのです。日々のちょっとした声かけや生活リズムの見直しが、こどもの自己制御や学習の力を伸ばす一歩になります。そして、迷いや悩みがあるときは、専門家の意見を積極的に取り入れることも重要です。保護者がオープンな姿勢でこどもの成長をサポートすることで、未来への可能性はさらに広がるでしょう。

ワーキングメモリ教育推進協会

野瀨 まなみ さんインタビュー
インタビューにご協力いただいた


企業様のご紹介

一般社団法人ワーキングメモリ教育推進協会

819-1117
福岡県糸島市前原西1丁目8-27第2広瀬ビル 201・202

ワーキングメモリ教育推進協会は、湯澤正通を代表理事として2020年に設立されました。
湯澤 正通 代表理事 は、広島大学大学院人間社会科学研究科教授でもあり、ワーキングメモリ研究の第一人者です。湯澤 代表理事が科学研究費助成事業で開発した、こどもの学びの特性を知るワーキングメモリのアセスメント「HUCRoW」Hiroshima University Computer-based Rating oWorking Memoryの略称)を提供。「HUCRoW」は、湯澤代表理事と理事 / ㈱インフィニットマインド 上級インストラクター 野瀨まなみさんがレポートを作成し、保護者との個別面談をされています。
法人様からのご依頼での勉強会や研修会も随時実施。2021年以降、定期的にワーキングメモリや「学びの個性」「学びの個別最適化」等をテーマにセミナーや勉強会を開催し、これまでのべ約3,000名以上の方々が参加されています。