#60 空に描く設計図(SDGs 09: 産業と技術革新の基盤を作ろう)

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建設の音が響き、鉄骨とコンクリートの間で都市の鼓動が刻まれていた。

作業員の間に立つミアは、タブレットを片手に、見えない線を空間に描くように目を走らせた。

「街はただの建物じゃない」と彼女はつぶやいた。

「そこに生まれる物語こそが、街をつくるんだ。」

だが、新しいビルの影では古い道がひび割れ、忘れられた街角は静かに崩れていった。

ある朝、新しい発想が生まれた。

それは設計図ではなく、働く人々のささやきの中にあった。

一人の作業員が取り残された橋を指さし、別の者は錆びついた工場を示した。

ミアは耳を傾け、その想いを線と角度に変えていく。

「もし、取り残された人のために建てるとしたら?」彼女の言葉は鉄のように硬く、まっすぐ響いた。

ためらう者もいたが、何人かはそっと頷き、これまで触れることのなかった未来に指を伸ばした。

やがて、古びた橋はただの記憶ではなくなり、人々をつなぐ光の道になった。

静かだった工場の壁は、金属だけでなく、新しい可能性を生み出す音で満ちた。

かつて埃にまみれていた場所で、子どもたちが走り回り、笑い声が足場のように空へと広がっていった。

街はもはや高層ビルの連なりではなく、それを再び築き上げた人々の鼓動そのものだった。

その夜、ミアは鉄骨の最上部に立ち、足元に広がる街の光を見下ろした。

タブレットに描かれた設計図と、そこに広がる景色はよく似ていた。

だが、一つだけ違うものがあった。

それは、線がただ引かれたものではなく、人々の手で生きたものになっていたこと。

かつて静かだった都市は、今、無数の物語とともに息づいていた。