#65 沈黙の海が語るとき (SDGs 14:海の豊かさを守ろう)


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海はどこまでも広がり、遠くの街のネオンを鏡のように映していた。
桟橋に立つリオは、波間に漂うプラスチックボトルを眺めていた。
それはまるで、誰にも拾われずに消えていく記憶のようだった。
祖父が語ってくれた、魚たちが銀色の影のように踊る豊かな海は、今や静かになりすぎていた。

ある夕暮れ、リオは海へと潜った。
懐中電灯の光が濁った青の中を切り裂き、浮かび上がった影は魚ではなく、絡まり合ったプラスチックだった。
ゆらめく波の中、ウミガメがもがいていた。
見えない鎖のように巻き付くゴミの網に捕らわれ、自由を奪われていた。
リオはそっと手を伸ばした。
指先が触れたのは、かつて生き生きと呼吸していた海の、最後の名残だった。

それからの数週間、リオは海辺へと足を運んだ。
ひとりではなかった。
いつしか、同じように海に手を差し伸べる人々が集まり、静かに網を引き上げ、ゴミを拾い、失われたものを取り戻そうとしていた。
波がささやくように、海が語るように、彼らは黙々と動き続けた。
すると、海の奥から忘れられていた魚たちが戻ってきた。
死んだように沈んでいた珊瑚も、わずかに色を取り戻していた。

そしてある朝、リオは再び桟橋に立った。
潮の流れは少しだけ優しくなり、どこか軽やかに感じられた。
遠くの街のネオンは変わらず瞬いていたが、今はそれだけではなかった。
波の表面が、静かに輝いていた。
まるで、長い間途絶えていた対話が、ようやく再び始まったかのように。
