#67 ことばより静かな答え (SDGs 16:平和と公正をすべての人に)


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リナは教室の一番後ろに座っていた。
ノートの端に小さな絵を描くのが好きで、誰かと目が合えばすぐに視線をそらした。
話しかけても返事がないことが多くて、周りの人たちはいつしか距離を置くようになった。
ある日、誰かのスマホがなくなったとき、理由もなく「リナじゃない?」という声が教室に広がった。

そのとき、ユウトは何も言えなかった。
「ちがうんじゃないか」と思ったけれど、空気に逆らうのが怖かった。
でも、家に帰ってからもその場面が頭から離れなかった。
彼は一枚の紙を取り出し、「あなたのせいじゃないと思う」と書きはじめた。

翌朝、ユウトはそっとその手紙をリナの机に入れた。
リナは何も言わなかったけれど、手紙を読んだあと、ゆっくりと顔を上げた。
その日から、リナは少しだけ表情が変わった。
ある日、ユウトの目を見て小さくうなずいた――それは言葉のない「ありがとう」だった。

教室のすべてが変わったわけではない。
けれど、誰かが「見て見ぬふり」をやめたことで、空気が少しやわらかくなった。
沈黙の中にあった小さな不正義が、少しだけほどけていった。
静かな手紙が、ひとつの対話を生み出していた。
