#68 レールの終わりに始まるもの (SDGs 17:パートナーシップで目標を達成しよう)

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古い操車場には、もう誰の足音も響かなくなっていた。

錆びたレールが伸びたまま、誰にも使われず時間だけが積もっていた。

ある朝、アヤカはそこに現れ、タブレットを手に線を描きはじめた。

「写真じゃないの?」と、近くで見ていた少年マリクが不思議そうに眉をひそめた。

「ただの計画図。でも、ここに何か作れたらって思ってる」とアヤカは静かに言った。

マリクは腕を組んで少し考え、やがて「だったら話を聞けよ」と言った。

ふたりの間に共通の言葉は多くなかったけれど、鉄と木には通訳がいらなかった。

やがて、誰に呼ばれたわけでもない人たちが、一人また一人と集まってきた。

図面は板になり、板はベンチに、ベンチは歩ける小道になった。

アヤカが耳を傾け、マリクがその場所の記憶を語るうちに、風景が少しずつ形を変えていった。

誰がリーダーか決めなかったし、決める必要もなかった。

ただそこに来た人が、それぞれの「できること」を持ち寄って、少しずつ何かがつながっていった。

ある日、地図アプリが更新され、その場所に小さな橋が映った。

名前も説明もない、でも確かに存在する橋。

アヤカとマリクは、その両端に立って静かに見つめ合った。

「誰のものでもない」ことが、この橋の意味だった。

橋はもう、そこにあるだけで、十分だった。