インタビュー：
慶應義塾大学 経済学部
藤原グレーヴァ 香子 先生
はじめに
本物指向の教育情報メディア「ACTIVE!」と社会・経済ニュースメディア「キッズノミクス」では、「好奇心を刺激する学び」をテーマに記事の配信に取り組んでいます。
今回は両メディアの共同企画「大学の経済・経営学部を探検！」と題した特集記事をお届けします。
本記事は、経済メディア『キッズノミクス』で公開している長編インタビューの抜粋再編集版です。全編は以下より御覧ください。
今回は、慶應義塾大学経済学部の藤原グレーヴァ香子先生にお話を伺いました。
同学部は、日本初の経済学部として、理論と実証の両面から経済学を深く学べる環境を提供し、少人数制ゼミや国際的なプログラムも充実しています。
藤原先生は、慶應義塾大学卒業後スタンフォード大学でPh.D.を取得した理論経済学者で、非協力ゲーム理論やミクロ経済学を専門とし、国内外で高い研究実績をお持ちです。
ゼミではゲーム理論やミクロ経済学の正確な理解と論理的思考力の養成に注力し、学生一人ひとりの成長を重視した指導が特徴です。
経済学を本格的に学びたい方や、進路を考える保護者の皆様にも有益な内容となっています。
インタビューにご協力いただいた先生
藤原 グレーヴァ 香子 先生
慶應義塾大学
経済学部 教授
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学大学院修士課程修了後、スタンフォード大学経営大学院でPh.D.（経済学）取得。
専門は理論経済学、特に非協力ゲーム理論およびミクロ経済学で、国内外で多くの研究実績を持つ。2007年より慶應義塾大学経済学部教授として、教育・研究に従事。
経済学が人生を変えた瞬間とは？
本日はよろしくお願いします。まずは、先生が経済学を学ぼうと思われたきっかけについて教えてください。
藤原先生： はい、私は横浜で育ちました。中学・高校時代はバレー部で走っていたのですが、港の近くで平日の昼間に港湾労働者の方々が仕事もなく座っている姿をよく見かけたんです。それを見て、「この人たちが悪いのではなく、社会の仕組みに問題があるのではないか」と思ったのがきっかけでした。
それが経済学につながっていくわけですね。
藤原先生： ちょうど高校で政治経済の授業が始まった頃で、需要と供給のグラフを初めて見て「これは社会問題をお金を通じて考える学問だ」と直感的に感じました。物理も好きだったので、グラフを見たときに「これは社会の物理学だ」と思ったんです。
物理学科とは迷いませんでしたか？
藤原先生： 実は迷いましたが、当時は部活に夢中で数学の勉強が足りていませんでした。物理は厳しいなと思って、経済学に進むことにしました。
結果的には慶應の経済学部に進学されたんですね。
藤原先生： はい、経済学部一本で受験して、たまたま慶應に合格しました。入学後、数学の必修がとても合っていて、「社会の物理学だ！」と感動しましたね。
経済学は平等で開かれた学問
高校生にも伝えておられるという、経済学の「平等性」について教えてください。
藤原先生： ミクロ経済学のモデルでは「消費者」という概念が出てきます。そこでは18歳の私も、一国の偉い人も、同じ「消費者」として扱われます。年齢も立場も関係なく、全員が平等なんです。それがとても感動的でした。
経済学＝正しく生きるための学問、という印象を受けました。
藤原先生： そうです。命令ではなく、仕組みを工夫して問題を解決するのが経済学の考え方です。戦後の民主主義の影響もあるのかもしれませんが、命令されるのではなく、自分で考えることを大事にする学問です。
慶應には独特の文化もあるとお聞きしました。
藤原先生： はい、先生を「さん付け」で呼び、同僚を「君付け」で呼ぶ文化があります。休講の案内も「◯◯くん休講」って書いてあったりして（笑）。女性の先生も「くん」付けで呼ばれます。そういうところに平等性や合理性を感じますね。
インタビュアー： ゼミでもその考え方は変わりませんか？
結果的には慶應の経済学部に進学されたんですね。
藤原先生： 変わりません。学生が自分で予習してプレゼンし、理解度を「○」と「？」のカードで確認する仕組みです。常にインターアクションを重視しています。頭は使いますが、楽しいですよ。
数学が苦手でも大丈夫？ 経済学部で出会う「言葉の数学」
経済学部に進みたいけれど数学が苦手という高校生も多いと思います。
藤原先生： それはよく分かります。でも、経済学では「位相数学」という、計算ではなく言葉で概念を定義する数学があるんです。私もこの数学に救われました。
具体的にはどんな内容ですか？
藤原先生： 例えば「距離とは何か」といった問いに対して、言葉で定義していく数学です。新しい言語を覚えるような感覚で、言葉に強い人にも向いています。
高校数学とは全く違うアプローチなんですね。
藤原先生： そうなんです。高校で数学が苦手だったとしても、大学で再スタートできます。私は入試数学に苦労しましたが、位相数学に出会って研究者になれました。
経済学の幅広さと応用力
経済学は文系と見られがちですが、理系的な側面も多いですね。
藤原先生： はい、世界的にも経済学は文系とされがちですが、実際は応用数学に近い分野もあります。研究者、歴史研究者、データ分析者など、関わり方はさまざまです。
経済学の魅力がもっと伝わるといいですね。
藤原先生： 高校の出前授業では、Tシャツの仮想取引などのワークを通じて、価格や交渉の概念を体験的に学んでもらっています。ゲーム理論やプレゼンでも、相手の立場を想定する力が育ちます。
経済学の理論って実生活と密接につながっていますね。
藤原先生： そうなんです。関税政策や年金問題など、知っておくと判断力が違ってきます。「経済学＝就職のため」ではなく、「社会を良くするための学問」としての側面をもっと伝えたいです。
Path to Science for Girls：女子にこそ経済学の魅力を
インタビュアー： 女子学生の進学支援にも力を入れておられますね。
結果的には慶應の経済学部に進学されたんですね。
藤原先生： 「Path to Science for Girls」というプロジェクトを、アメリカ大使館の助成金を得て始めました。理系分野に進みたい女子中高生向けに、東大の女性教授と一緒にオンライン講座を行ってきました。
Path to Science for Girlsウェブサイト
オンラインなら地方の生徒も参加できますね。
藤原先生： はい。調査では、九州や東北の女子は県外進学が少ないというデータもありました。オンラインで全国どこからでも参加できるように工夫しました。
男子の参加もOKだとか？
藤原先生： もちろんです。興味がある人は誰でも歓迎です。実際に男子も多く参加してくれました。
最後にメッセージをお願いします。
藤原先生： 経済学は非常に平等で、命令や権威とは無縁な学問です。みんなで考えて、社会を良くする。そのための学びを、ぜひ体験してみてください。私はこの学問に出会えて、本当に幸せです。
本記事は、経済メディア『キッズノミクス』で公開している長編インタビューの抜粋再編集版です。全編は以下より御覧ください。
