
第13回 芸能の教科書「風姿花伝」

古典原文
秘する花を知ること。秘すれば花なり、
秘せずは花なるべからず、となり。
―『風姿花伝』
現代語訳(小学生向け)
秘密にすることで生まれる花を知ることが大切です。
秘密にすれば花であり、秘密にしなければ花になることはできません。
子ども向けの解説
「風姿花伝」は、今から約600年前の室町時代の能楽の役者、世阿弥によって書かれました。世阿弥の父である観阿弥から受けた芸の教えをもとに書かれたもので、芸能の教訓書として、今も愛されています。
能とは、もともとお寺や神社の祭礼(神様に関係するぎしき)だったのですが、それがしだいに庶民が楽しめるように変化していきました。能は、歌と舞があわさった、今でいうミュージカルのようなものです。
世阿弥は、その能のアイドルのような役者でした。そしてまた、優れた脚本家でもありました。そんな世阿弥が自分の経験をもとに、芸の極意を記したのが、この「風姿花伝」です。
今回取り上げた冒頭の文は、観客の予想をいい意味で裏切るような、意外な展開や芸が、観客の心をつかむのだという意味です。推理小説やドラマ、漫画などでも、あっとおどろく意外な展開には、思わず引き込まれてしまいますよね。
また、自分の切り札は最後まで見せず、ここぞという時まで秘密にしておくことが勝負に勝つコツだとも書かれています(勝負に勝つコツは、以前取り上げた徒然草にも取り上げられていますよ)。
他にも「初心忘るべからず」「上手は下手の基本、下手は上手の基本」など、今でも聞いたことがあるような教訓も書かれています。特に「初心忘るべからず」は、今とは少し違った意味で書かれています。
初心者のときの謙虚な気持ちを大切に、というより、未熟な時期を含めたさまざまな時期に身につけた芸を忘れず、芸の幅を増やそうという考え方の方が近いかもしれません。その他にも、音楽やスポーツなどが上達するためのヒントや教訓が書かれていますよ。

親世代・祖父母世代向けの解説

風姿花伝は、室町時代の能役者である世阿弥が記した能の理論書です。全七編あり、「幽玄」「物真似」「花」といった芸の奥義が語られています。日本最古の演劇論とも言え、その高度な芸能論は、現代でもさまざまな芸術家によって根強く愛されています。翻訳もされ、日本国外でも評価されています。
世阿弥が能において重視した「花」とは、面白いこと、珍しいことであり、それは隠されているからこそ成立するのだとも述べています。他にも、「能を演じる時は、観客の目になって自分を見よ」という客観視の重要性を説く教え(離見の見)も述べられています。

今でも役立つ上達の心構えが多く述べられています。風姿花伝の教訓の中から、どのような教訓が今でも役立つか、一風変わった面白い教訓などはないか、お子さんと話し合ってみてもいいかもしれません。
記事作成者

長尾 一毅 (ながお かずき)
15年以上にわたり小・中・高校生の国語指導を担当。読解力こそ全教科の基盤と考え、集団授業から個別家庭教師まで多様な教え方を実践し、生徒の理解度に応じた指導を行う。脳科学の知見を交えた問いかけと対話を重ねることで、「自分で考え抜き、答えを導き出す」習慣を育む指導に定評がある。
