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Overseas Education News #05 IQ vs EQ: The Real Wealth
シンガポールの賃金は日本の約2倍といわれています。その原動力は、6歳から始まる超高速なデジタル教育と12歳で人生を振り分ける過酷な選別システムにあります。その「光」の裏側にある「影」を知ったとき、日本の教育が持つ独自の価値が明らかになります。
シンガポールの「一発勝負」の重圧
シンガポールのIT教育は、日本の数年先を走っています。シンガポールでは、小1で教育省のサイトに自らログインして、学級委員の志望理由をパワポで作成し、タイピングで提出します。国が決めれば、連絡帳も明日から強制的にアプリ化されるトップダウンの速さがあります。
一方、日本のDXは遅いと批判されがちですが、そこには現場の合意を重視する「民主的なプロセス」が残っています。効率を最優先して「ついてこれない者を置き去りにする」シンガポールに対し、日本はまだ「みんなで進む」温かさがあります。
シンガポールの子どもたちにとって、12歳の「小学校卒業試験(PSLE)」は、人生最大の分岐点です。この一回の試験結果で進学コースが決まります。進学校に漏れれば大学への道は極めて険しくなり、日本のような「中学受験の失敗を大学受験でリベンジ」という逆転劇はほぼ不可能です。

日本の中学受験も激化していますが、まだ「ルート」は複数用意されています。12歳という幼い年齢で人生の天井が決まってしまうシンガポールの「一発勝負」の重圧は日本の比ではありません。
EQ(心の知能指数)で見え隠れする課題
シンガポールの教育はIQ(知能指数)を伸ばす仕組みとしては完璧ですが、EQ(心の知能指数)の面では課題が見え隠れします。シンガポールでは、住み込みのヘルパーを雇う家庭が多く、掃除や身の回りのことは「誰かがやってくれるもの」という意識になりがちです。また、学校では「権威(先生や上司)には逆らわない」ことが美徳とされています。
日本では、しつけ、ルールを守ることなどEQを育む環境が整っています。特に日本独自の「給食」や「掃除」は、実は世界が注目する人格教育です。給食は、栄養への配慮があり、配膳の役割分担を通してみんなで一緒に食事をとることがルール化されています。また、掃除は、自分の環境を自ら整えることで「主体性と公共心」を育みます。これらは数値化できませんが、他者への想像力や責任感を育む、日本が世界に誇れる「全人格教育」なのです。

学力テストでは現れない強み
シンガポールの教育は、資源のない小国が生き残るための「合理的で強力な武器」です。その戦略性は日本も学ぶべきでしょう。しかし、効率を追求するあまり、失敗が許されない12歳を過ごさせることが、果たして幸せへの近道なのでしょうか。日本の教育が大切にしてきた「のびのびとした人格形成」や「何度でもやり直せる寛容さ」は、学力テストの順位表には決して現れない、日本の子どもたちの強みなのです。
「世界一の学力」と「自分を肯定できる心」。これらは対立するものではなく、うまく両立させることが何より重要だと考えます。今回取り上げたシンガポールの例はあくまで一例で、他国も同様に大変な競争社会です。日本の教育においても受験戦争という言葉が象徴しているように、競争が激しい面も持っています。そのような中でも、大人がEQの視点を持つことが子どもの心の豊かさにつながると考えます。
