
#9 建築家ビリー(SDGs 09:産業と技術革新の基盤を作ろう)
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――街のはずれ、小さな家の裏庭で。
古びた木箱の上に立ち、ひとりの少年が空を見上げていた。
名はビリー。まだ幼いけれど、頭の中にはいつも大きな建物が立ち並んでいた。
ビリーは町で一番の「くふう好き」だった。
古いネジを見つければポケットにしまい、壊れた棚板を見つければ机に、余った段ボールは屋根に変えてしまう。
――考えるだけでなく、作らずにはいられなかった。

あるとき、町に大きな問題が起きた。
古い橋が壊れてしまい、向こう岸の学校へ行くには遠回りをしなければならない。
大人たちは困り果て、「お金がない」「材料がない」と頭を抱えた。
その夜、ビリーは眠れなかった。
枕元の古いスケッチ帳を開き、ガサガサと鉛筆を走らせる。
「新しい橋……強くて、長くて、みんなが渡れるやつ。材料は……もうあるじゃないか」
彼は翌朝、町中を歩き回りながら声をかけた。
「いらなくなった板はない?」「曲がった釘でも、まだ使えるよ!」
笑う人もいたけれど、ビリーの目は真剣だった。
少しずつ、少しずつ、古材が集まり、スケッチの線は現実へとカタチを変えていった。

橋を作るのは簡単ではなかった。
木は重く、釘は曲がり、雨が降れば一度立てた足場が崩れた。
それでもビリーはくじけない。友だちが手伝い、大工のおじさんが知恵を貸し、鍛冶屋が古い釘を熱して伸ばしてくれた。
「ひとりじゃできない。だからこそ、おもしろいんだ。」
ビリーはそう言って汗をぬぐった。

そしてある朝。
川面に朝日が差し込み、一本の橋が金色にひかっていた。
古い材料で組まれたその橋は、不思議と新しい未来の匂いがした。
町の人々は恐る恐る渡りはじめ、やがて拍手が起きた。
子どもたちが駆け出し、おとなたちは目を細めた。
「ビリー、きみは小さな建築家だね。」
そう言われたとき、ビリーは照れくさそうに笑った。
けれど心の中ではもう次のページを描いていた。
古い倉庫を図書館に?空き地に風車を?
――古いものを活かし、新しいものへ変える道は無限にある。
それこそが、未来へ橋をかけるということだ。

努力と発想、仲間の力があれば、どんな町も変わる。
ビリーの橋は、その“証明書”のように川をまたいで立ち続けた。


